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ネフローゼ症候群

概念・定義
 ネフローゼ症候群は,腎糸球体係の蛋白透過性が亢進し,大量の蛋白尿とこれに伴う低アルブミン血症のために,浮腫,脂質異常症,血液凝固異常,免疫不全,易感染性などを生じる臨床症候群である.ネフローゼ症候群の診断基準は 1973 年に厚生省特定疾患ネフローゼ症候群調査研究班により報告されたものが用いられてきたが,2011 年,厚生労働省難治性疾患克服研究事業進行性腎障害に関する調査研究班難治性ネフローゼ症候群分科会により改定された(表 11-4-1).以前は,「尿蛋白」と「低蛋白血症(または低アルブミン血症 )」が必須条件となっていたが,今回の改定では第二の必須項目が「低アルブミン血症」となり「低蛋白血症 」が削除された.これは,ネフローゼ症候群ろうの本体は糸球体からの大量の蛋白の漏であること,こうガンマグロブリンが上昇する膠病や骨髄腫に伴うアミロイドーシスなどを原因とするネフローゼ症候群においては低蛋白血症を示さない場合もあることなどの理由による.また,正確な 24 時間蓄尿をすることが必ずしも容易でないことに鑑み,随時尿での尿蛋白の基準(3.5 g/gCr)が加えられた.同時に,治療効果判定基準(表 11-4-2)と治療反応による分類(表 11-4-3)も整理された.
分類
 ネフローゼ症候群は,臨床病理学的には大きく 原発性糸球体疾患(一次性あるいは特発性 )とその他の原因疾患に由来する続発性(二次性 )に大別される(表11-4-4).病理組織学的診断により一次性疾患は微小変化型,巣状分節状糸球体硬化症,膜性腎症および増殖性腎炎(メサンギウム増殖型,管内性増殖型,膜性増殖型および半月体形成型 )に分類される.二次性は原因もしくは病因が明らかであり,特定の因果関係が推測しうる全身性疾患が存在し,表に示すように多彩な基礎疾患によって惹起される.おもなものとして糖尿病性腎症,ループス腎炎,アミロイドーシス,C 型肝炎ウイルス(HCV)腎症などがある.
病理・病因
 ネフローゼ症候群の病理学的所見は,それぞれの基礎疾患により異なるが,共通した変化として糸球体係蹄上皮細胞(podocyte)の足突起の広範な融合と尿細管間質における間質浮腫と尿細管上皮細胞の空胞変性(脂肪沈着)あるいは蛋白顆粒を認める(各疾患についてはそれぞれの項に記述 ).
疫学・発生率
 新規発症のネフローゼ症候群は年間 3756 〜 4578例と推定され, 2008 年の新規発症の難治性ネフローゼ症候群は 1000 〜 1200 例と推定されている.各病型の発症頻度は年齢によって異なり,一次性では 40 歳未満においては微小変化型が多いが,高齢になるにしたがって膜性腎症の頻度が増加する.二次性では,40歳以上で糖尿病性腎症とアミロイドーシスによるネフローゼ症候群が増加している.
病態生理・臨床症状・検査成績
 正常の糸球体は尿中への蛋白の漏出を 2 つの機能で阻止している.1 つは,分子量の大きい物質の透過を阻止するフィルターの機能(サイズバリア),もう1 つは,濾過膜の陰性荷電により,陰性に荷電した蛋白を反発して通過を阻止する機能(チャージバリア)である.アルブミンは,分子量は小さいが陰性荷電しており,尿中への漏出は阻止されている.一方,免疫グロブリンなどは分子量が大きく,サイズバリアの障害により尿中に漏出する.チャージバリアのみの障害ではアルブミン主体の選択性の高い選択的蛋白尿となる.一方,サイはズバリアの破を伴う場合は巨大分子の漏出を伴う非選択的蛋白尿となる.選択性の判定は,高分子量蛋白IgG(分子量 160000,有効径 55 Å)と低分子量蛋白トランスフェリン(分子量 90000,有効径 38 Å)のクリアランスの比(CIgG/Ctf )として求められる蛋白選択指数(selectivity index)により行われる.0.25 以上の場合は選択性の低い蛋白尿,0.10 特に 0.05 以下の場合は選択性の高い蛋白尿であると判定される.
 ネフローゼ症候群の病態は,糸球体の透過性が亢進して多量の蛋白が尿中に漏出して体外に失われることに起因する(図 11-4-1).すなわち,アルブミンの喪失による低アルブミン血症,浮腫,低アルブミン血症に端を発する脂質の産生亢進と異化の低下のための脂質異常症がみられる.また,選択性の低い尿蛋白を呈する膜性腎症や膜性増殖性腎症では尿中に抗凝固・線溶系蛋白(アンチトロンビン,プラスミノーゲンなど)を喪失するために,凝固系の亢進が起こり,特に腎静脈血栓症を発症しやすい.免疫グロブリンや補体成分の尿中への喪失による免疫異常や易感染性,さらには,微量元素結合蛋白(鉄,銅,亜鉛)やホルモン・ビタミン結合蛋白(T3,T4,ビタミン D)が尿中漏出により低下し,低T3 症候群などもみられる.
1) 蛋白尿:
正常糸球体では 1.5 〜 3 g のアルブミンが濾過されると考えられているが,近位尿細管においてほぼ再吸収され,最終的には尿中アルブミンは 1 日20 mg 以下となる.
 糸球体係蹄は内皮細胞,基底膜および上皮細胞により構成されている(図 11-4-2).従来,有窓(大きな窓が開いている)細胞である内皮細胞は蛋白透過性のバリアとはなり得ず,糸球体係蹄基底膜(おもにヘパラン硫酸プロテオグリカン)ならびに上皮細胞膜の陰性荷電によるチャージバリア機能,基底膜構成成分であるⅣ型膠原線維と各種糖蛋白で形成される網状構造によるサイズバリア機能が蛋白透過性のバリアと考えられていた.しかし,最近,上皮細胞足突起間のスリット膜および内皮細胞の表面に存在するグリコカリックス(glycocalyx,多糖外被 )が蛋白透過性の重要なバリアであることが示されている.先天性(家族性)ネフローゼ症候群では,上皮細胞足突起あるいはスリット膜 構 成 分 子(nephrin,podocin,CD2-associated prote in,α-actinin-4,ion channel protein tran-sient receptor potential cation channel 6)ならびに基底膜構成分子(Ⅳ型膠原線維α3,4,5)の異常により蛋白尿が生じることが明らかとなった.これらの一連の研究は,これまでおもに基底膜がバリアだとする学説に対して,新たに,スリット膜の重要性を示した.一方,糖尿病などでは,グリコカリックスの喪失(減少 )が尿中へのアルブミンの出現と関連することが示された.グリコカリックスは内皮細胞により産生されるので,アルブミン尿は内皮細胞傷害とも関連すると考えられている.ネフローゼ症候群においては,一次性にしろ,二次性にしろ,免疫・炎症機構,異常蛋白沈着あるいは糸球体基底膜構成分子異常や糸球体高血圧などの血行動態の異常により,内皮細胞,基底膜や上皮細胞が傷害を受け,糸球体係蹄の透過性亢進が惹起される.
2) 低アルブミン血症:
正常では一定量のアルブミンが肝臓で合成され,一定量が分解( 異化)され平衡を保っている.腎臓では濾過された蛋白が近位尿細管で再吸収されて分解(異化)されるが,それは体全体の 10 〜20%とされている.ネフローゼ症候群においては再吸いき収の閾をこえた多量の蛋白が濾過されるため,再吸収されない蛋白が尿中に喪失されて低アルブミン血症を呈する.一方,肝臓は血清アルブミンの減少( 膠質浸透圧 )を感知して,アルブミンの産生を亢進しようとするが,実際の産生量は,通常の 12 g/日から14 g/日程度に増加するにとどまるため,低アルブミン血症が遷延する.臨床的にはアルブミン産生を反映する血清コリンエステラーゼは正常上限から高値を示す.
 一方,肥満関連腎症などでは 3.5 g/日をこえる尿蛋白があるにもかかわらず,低アルブミン血症が起こらない(または軽度)場合もある.これは,傷害を受けているネフロン数の違いによると考えられる.図 11-4-3 に示すように,同じ尿蛋白を示しても実際に循環血液中から失われ,尿細管で異化される血清蛋白量が違う.免疫を介する糸球体疾患では,多くの糸球体が損傷される結果,低アルブミン血症の重症度が高くなる.一方,高血圧や肥満などでは損傷を受ける糸球体数が限定的であるために低アルブミン血症の程度が軽いと考えられる.
3) 浮腫:
浮腫の形成機序については,以下の 2 つが提唱されている.
 a )underfill 仮説:血漿膠質浸透圧の低下により体液が間質へ移動することにより浮腫が形成され,有効循環血液量が減少する.その結果,レニン-アンジオテンシン-アルドステロン(RAA)系や交感神経系などが賦活化されて,二次的に水・Na の再吸収が亢進して,浮腫が増悪するとする考え方である.
 b)overfill 仮説:腎からの Na 排泄の障害による循環血液量の増加により浮腫が発症するという考え方である.ANP に対する感受性の低下,尿細管におけるNHE(sodium hydrogen exchanger)の発現増加などが報告されているがその詳細は不明である.
 微小変化型では underfill,膜性腎症などは overfillが主体であると考えられている.しかし実際には,浮腫の病態は単一ではなく,症例ごと,また同じ症例でも病期により 2 つの機序が異なる比率で存在するものと思われる.
4) 脂質異常症:
高コレステロール血症,高トリグリセリド血症,リポ蛋白(a)[Lp(a)]上昇がみられる.特に微小変化型ネフローゼ症候群では,著しい脂質異常症が生じ,腎組織内に脂質が沈着することからリポイドネフローゼともよばれてきた.蛋白合成の亢進に伴う超低比重リポ蛋白合成の亢進と同時にリポ蛋白リパーゼやレシチン-コレステロールアシルトランスフェラーゼなどの酵素活性の低下によるリポ蛋白異化の低下によって生じる.一般に超低比重リポ蛋白,低比重リポ蛋白と中間比重リポ蛋白の増加を伴う高コレステロール血症(Ⅱa,Ⅱb,Ⅴ型 )を示し,リン脂質あるいは中性脂肪も増加する.
合併症
1) 急性腎不全:
ネフローゼ症候群における急性腎不全の合併頻度は低く,そのほとんどが微小変化型である.複数の因子が関連して引き起こされていることが多いが,なかでも低アルブミン血症に伴う有効循環血漿量(血管内血漿容量)の低下は急性腎前性腎不全の誘因であり,蛋白尿が多い症例ほど急性腎不全の合併が多い.高齢者は潜在的な急性腎不全のハイリスク群である.また,感染症(特に敗血症 ),腎静脈血栓症,利尿薬の過剰投与による循環血液量の低下,非ステロイド系抗炎症薬,RAA 系の阻害が誘因となることもある.
2) 凝固異常・ 血栓症:
肝臓での蛋白合成が亢進し,凝固因子(Ⅴ,Ⅶ,Ⅷ,Ⅹ,フィブリノゲンなど)が増加する.一方,抗凝固因子(プロテイン S,アンチトロンビン )や線溶系蛋白(プラスミノーゲン)が尿中へ漏出し,これらの血中レベルが低下する.また,血小板凝集能は亢進し,治療に用いられるステロイドも凝固促進作用がある.これらの複合的な病態によってネフローゼ症候群では,凝固亢進状態になりやすい.血栓症は膜性腎症で発生頻度が高いとされているが,いずれの組織型であってもネフローゼ症候群であれば起こりうる.下肢の深部静脈血栓症,腎静脈血栓症の頻度が高く,肺血栓・塞栓症により重症化することもある.
3)易感染性:
ネフローゼ患者は各種感染症に対して易感染性を示し,感染症は重要な死因である.尿中喪失や産生低下による IgG と補体成分の低下による液性免疫の低下に加え,T 細胞系の免疫抑制もみられる.くわえて治療に用いられるステロイド・免疫抑制薬の使用に伴う免疫能の低下も関与する.
4)悪性腫瘍:
成人のネフローゼ症候群では悪性腫瘍の合併頻度が高く,膜性腎症では 3 〜 5%と報告されている.発症時期が重要であり,ネフローゼ症候群が腫瘍発見に先行するケースが約 40%,ほぼ同時に発見されるケースが約 40%,そして腫瘍発見が先行するケースは約 20%と報告されており,いずれにせよその時間差(タイムラグ )は 1 年未満とされている.1 年以上のブランクでおのおのが出現した場合は,個別の疾患として扱われることが多い.
 合併する悪性腫瘍に関しては,固形癌としては諸外国では肺癌が最も多く報告され,ついで消化器癌,腎癌と続くが,わが国では肺癌が比較的少なく,消化器系悪性腫瘍が最も多い.腫瘍と関連する免疫異常がネフローゼ症候群の発症原因になっていることが推測されるが,悪性腫瘍を外科的治療によって摘出しても,尿蛋白の完全寛解率は 50%未満である.
 ステロイド治療や免疫抑制療法は悪性腫瘍のリスクを増大させる. 免疫抑制による腫瘍免疫の低下に加え, 難治性ネフローゼ症候群で治療に用いられるシクロホスファミドは,尿中代謝物アクロレイン(acrolein)が尿路系への毒性を有しており,膀胱障害(出血性膀胱炎 )や発癌作用( 特に膀胱癌 )を有していることが知られている.
診断・鑑別疾患
 診断は先に述べた基準により臨床・検査所見に従った臨床診断と腎生検による組織(病型)診断を行う.同じ病型でも基礎疾患により治療法ならびに予後が異なる.必要に応じて合併症(後述)の診断を行う.
治療
 治療は原疾患によって異なるが, 最も大切なことは尿蛋白を減少させることである.治療後の尿蛋白の程度が腎予後を決定する最も大きな要因である.二次性の場合は原疾患の治療が重要である.尿蛋白の減少を目的とした治療と浮腫の軽減や合併症の予防を目的とした治療がある.
1)ステロイド・免疫抑制薬:
原発性糸球体疾患やループス腎炎など免疫機序が関与する疾患では,副腎皮質ステロイド薬や免疫抑制薬により治療を行う(詳細は各疾患の項を参照).
 ステロイドの使用にあたっては,易感染性,血栓形成,骨粗鬆症,消化性潰瘍,ステロイド精神病,ステロイド糖尿病,大腿骨頭壊死症,ウイルス肝炎の再燃などの副作用に注意する.骨粗鬆症に対して,「骨粗鬆症の予防と治療ガイドライン」は,経口ステロイド(プレドニゾロン換算 5 mg/日以上)を 3 カ月以上使用する症例では,薬物療法(第一選択はビスホスホネート製剤,第二選択は活性型ビタミンD3 製剤やビタミンK2 製剤)を推奨している.ステロイド糖尿病では食前血糖は正常でも食後血糖が高くなる.大腿骨頭壊死症の疼痛は膝痛が主体となることがあるので注意する.
 免疫抑制薬はステロイド抵抗性ネフローゼ症候群,ステロイド依存性ネフローゼ症候群,頻回再発型ネフローゼ症候群,ステロイドの高用量使用による副作用のためステロイドが十分量使用できない,などの場合で使用される. シクロスポリンなどは治療効果のみられる血中濃度と副作用が出現する濃度の幅が狭いために,症例ごとに血中濃度を測定し(therapeutic drug monitoring:TDM,治療薬物モニタリング ),至適投与量を決める必要がある.また,ほかの薬剤との相互作用により,血中濃度が変化する.
2)食事療法:
日本腎臓学会のガイドラインでは,総エネルギーは 35 kcal/kg/日,蛋白摂取量ならびに塩分は,微小変化型でそれぞれ 1.0 〜 1.1 g/kg/日と 5 g/日,それ以外の病型で 0.8 g/kg/日と 0 〜 7 g/日とする.カリウムは血清値により増減し,水制限に関しては浮腫の程度により決定する.
3)浮腫への対応:
食塩制限,安静にくわえてループ利尿薬を中心とする利尿薬を用いる.低カリウム血症を伴う場合は抗アルドステロン拮抗薬を併用する.アルブミン製剤の併用は,一過性の効果であり,サイズバリアの破綻を促進することから,利尿薬に反応しない難治性の浮腫あるいは循環血漿量の減少に伴う急性腎不全の場合に限り用いる.
4)腎保護を目指した降圧治療:
ACE 阻害薬や ARBは降圧とともに尿蛋白を減少させ腎保護作用を示す.糖尿病性腎症やステロイド抵抗性ネフローゼ症候群で使用するが,微小変化型では使用しない.塩分制限,利尿薬あるいは低蛋白食の併用で蛋白尿の減少効果が増強される.血圧の過度の低下と腎機能の悪化に注意する.
5)脂質異常症治療:
長期にわたる脂質異常症は 粥じよう状硬化のみならず,糸球体硬化ならびに間質の炎症・線維化を促進することが考えられている.低コレステロール食にくわえて脂質異常治療薬(スタチン,エイコサペイントイン酸,エゼチミブなど)が併用される.難治性巣状分節性糸球体硬化症では LDL アフェレシスが有効であると報告されている.
予防・治療
1)急性腎不全:
適切な輸液・循環管理を行う.低蛋白血症に伴う腎前性腎不全が病態の中心である場合には,患者を速やかに安静加療(入院 )させ,適切なアルブミン製剤の投与に基づく血管内液量の維持によって腎機能は速やかに改善することが多い.尿 Na 分画排泄率(FENa)を 1%以上に保つ.ただし,低アルブミン血症に対するアルブミン補充療法は,あくまで短期的な血管内液量の是正と腎血漿流量維持の目的で使用することはあっても,根本的な治療になり得るものではないので,慢性的に投与すべきものではない.感染症(特に敗血症)や腎静脈血栓症に付随する急性腎不全では,速やかに原因を除去する.RA 系阻害薬は,急性腎不全が発症した際にはいったん中止することが望ましい.ネフローゼ症候群に合併する重症の急性腎不全では,積極的に血液透析も考慮する.
2)血小板・抗凝固・線溶療法:
血小板凝集あるいは血小板由来の炎症性因子の抑制と透過性亢進の是正を目的にジピリダモールあるいは塩酸ジラゼプが用いられる.増殖性腎炎あるいは巣状分節性糸球体硬化症では,陰性荷電の保護ならびに糸球体硬化の進展阻止を目的にヘパリンの持続投与とワルファリン併用が行われる.
 すべてのネフローゼ症候群の患者に対して抗凝固療法をする必要はないが,血清アルブミン値が常に2.5 g/dL 以下の難治性ネフローゼ症候群では予防的治療を考慮することが必要である.特に,腎静脈血栓症や深部静脈血栓症の既往があるケースでは ワルファリンによる抗凝固療法が出血のリスクをこえて有用である.さらに,血清アルブミン値が 2.0 g/dL 未満の重症になれば,過凝固による血栓形成のリスクが急激に高まるため, ヘパリンにて活性化部分トロンボプラスチン時間(APTT )を 2 倍以上,もしくはワルファリンにて PT-INR(プロトロンビン時間の国際標準比)が 2.0(1.5 〜2.5)になるような予防的抗凝固療法を考慮する.
3)易感染症:
ネフローゼ症候群の患者では肺炎球菌ワクチンの接種が推奨される.1 日 20 mg 以上の プレドニゾロンや免疫抑制薬を長期間にわたり使用する場合には,顕著な細胞性免疫低下が生じるため, ニューモシスチス肺炎に対する予防的投薬を考慮する.また,適宜,日感染症のモニタリングを行いながら,臨床症候に留意して早期診断に基づく迅速な治療が必要である.診療にかかわる医療従事者は,「手洗い」など感染対策を遵守し感染予防に努めるとともに,感染予防についての患者教育を行うことが重要である.
4)悪性腫瘍:
悪性腫瘍が合併する可能性を常に考慮してスクリーニングする.免疫抑制療法に伴う発癌リスクについても十分な注意を払う.近年, シクロホスファミドによる副作用による出血性膀胱炎や続発する膀胱癌に対する予防薬として メスナ(2-mercaptoethane sodium sulfonate)が開発された.メスナはアクロレインの二重結合に無障害性付加体を形成し膀胱障害を抑制することが知られている.
予後
 予後は病型と治療反応性により規定される.一次性の場合,微小変化型の予後は良好であるが,頻回再発あるいはステロイド依存性の問題がある.膜性腎症は比較的予後良好であるが治療抵抗性を示す約 30%に腎不全への進行,感染症あるいは心血管系合併症がみられる.増殖性腎炎ならびに巣状分節性糸球体硬化症では一般に治療抵抗性で微小変化型あるいは膜性腎症に比し予後不良である.二次性の場合,基礎疾患により予後が異なる.現在問題となっている糖尿病性腎症は治療抵抗性で予後は最も不良である.[伊藤貞嘉]
■文献
松尾清一, 他:ネフローゼ症候群診療指針,日腎会誌,53: 78-122, 2011.
表11-4-1
成人ネフローゼ症候群の診断基準(松尾ら,2011)">

表11-4-1

表11-4-2
ネフローゼ症候群の治療効果判定基準(松尾ら,2011)">

表11-4-2

表11-4-3
ネフローゼ症候群の治療反応による分類(松尾ら,2011)">

表11-4-3

表11-4-4
ネフローゼ症候群の原因疾患">

表11-4-4

図11-4-1
ネフローゼ症候群の病態生理">

図11-4-1

図11-4-2
糸球体毛細血管係蹄の構造と傷害因子">

図11-4-2

図11-4-3
傷害ネフロン数,尿細管による蛋白再吸収・異化と尿蛋白の関係">

図11-4-3


出典 内科学 第10版内科学 第10版について 情報

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