ホーム > 新着記事 >

摂食障害

摂食障害(表1-6-5)の主たる疾患として,神経性無食欲症(anorexia nervosa,表1-6-6)および神経性大食症(bulimia nervosa,表1-6-7)が存在し,診断基準として,米国精神医学会によるDSM-Ⅳ-TR(精神障害の診断と統計の手引き)が用いられることが多い.これらの疾患の病態は,「食欲」の問題ではなく,体型や体重に対する「認知の歪み」であり,通常,精神疾患に分類されるため,厳密には心身症ではない.
 しかし,特に,神経性無食欲症の場合,低体重・低栄養・脱水に伴い,さまざまな身体の異常所見・血液および尿検査の異常・生理学的検査の異常が認められ,心身症に準じて,心身両面からのアプローチが必要であり,心療内科で診療することが多い代表的な疾患である.また,低体重を伴わない神経性大食症であっても,排出行動による電解質異常などの血液検査の異常が認められ,身体面の管理も必要となる.さらに,特定不能の摂食障害に含まれる,むちゃ食い障害(binge eating disorder)では肥満症を合併することも多く,肥満症の併存疾患としても重要であるとともに,肥満症を呈した場合は心身症としての側面を兼ね備える.
 以下に,内科的治療を優先すべき場合も多い,神経性無食欲症の身体面の変化について記載する.神経性無食欲症はボディイメージの障害,強いやせ願望や肥満恐怖のため,不食や摂食制限,あるいは過食しては嘔吐するため,著しいやせとさまざまな身体症状,精神症状を生じる.神経性無食欲症のうち,不食や摂食制限のみで,むちゃ食いや排出行動を伴わないものを制限型(anorexia nervosa restricting type)という.またむちゃ食いや,嘔吐・下剤や利尿剤の乱用などの排出行動を伴うものをむちゃ食い/排出型(anorexia nervosa binge eating/purging type)とよぶ.低体重,低栄養による二次的な変化として,さまざまな身体所見,検査所見が認められ,場合によっては致死的となる(表1-6-8).
 治療に関しては,エビデンスレベルの高い治療法はいまだ存在せず,栄養を補う栄養療法と心理療法の一種である認知行動療法が用いられることが多い.
a.消化器系
 胃排出運動の遅延は神経性無食欲症患者においてよく認められる.食後の膨満感などの訴えとなり,さらに食事忌避の理由となっていることがあるため注意が必要である.過食嘔吐のある患者においては耳下腺腫脹を主とする唾液腺腫脹が認められることが多い.これは自己誘発性嘔吐による唾液腺分泌刺激が原因といわれており,唾液腺型アミラーゼの上昇を認める.
 その他,神経性無食欲症患者では,低栄養状態や高度の脱水の症例で肝酵素の上昇が認められるが,詳細な機序はいまだ不明である.多くは栄養状態や脱水の改善に伴い速やかに正常化する.また,再栄養の時期にも再栄養症候群(refeeding syndrome)として,一時的に肝酵素の上昇を認めることが多いが,経過観察のみで正常化する.
b.電解質
 低カリウム血症,低リン血症,低マグネシウム血症,低カルシウム血症などが認められることが多い.低カリウム血症は経口摂取量や体液量の減少,嘔吐,下剤,利尿剤の乱用が関係している.低リン血症は飢餓状態において,経静脈的あるいは経鼻胃管による栄養投与時に認められることが多く,やはり再栄養症候群において認められる.極度の低リン血症では,横紋筋融解症など致死的な合併症を生じる危険があり,注意深いモニタリングが必要である.
c.糖代謝
 低栄養による慢性的な低血糖は神経性無食欲症患者に多く認められる.さらに慢性低血糖であるため多くの患者では低血糖の自覚症状がない.そのため,突然意識障害(低血糖性昏睡)を生じ,死に至るケースも多いため十分な注意が必要である.
d.循環器系
 神経性無食欲症患者において,低栄養と脱水,電解質異常によりさまざまな循環器系の合併症を生じ,突然死が少なからず生じる.特に,電解質の異常を伴わない場合でもQT間隔が延長しているケースもあり,頻拍性の心室性不整脈の危険因子となる.また,神経性食欲不振症患者では心囊水貯留や極度の徐脈を認めることもある.
e.内分泌系
 神経性無食欲症患者では体脂肪減少に伴う続発性無月経などの内分泌系の異常所見が認められる.無月経と関連した所見としては性ホルモンの低下を認め,LH-RHに対するLH,FSHの反応不全も認められる.甲状腺に関しては神経性無食欲症患者においてeuthyroid sick syndromeが認められる.通常フリーT3は低下するが,甲状腺刺激ホルモンは正常であることが多く,lowT3症候群とよばれる.これは低栄養状態に反応してT4からT3への転換が減少し,代謝活性の低いリバースT3が優先的に産生されるためであり,低体重・低栄養への適応的な反応であるため,甲状腺ホルモンの投与を行ってはいけない.
f.代謝系
 神経性無食欲症においてはほかの飢餓状態とは異なり,高コレステロール血症を認める.これは胆汁酸の分泌の減少とコレステロール代謝の遅延に関連しているといわれている.
g.骨代謝系
 神経性無食欲症では,低体重,低カルシウム血症,また低エストロゲン血症など骨密度を低下させる要因が存在し,病的骨折を認めることもある.
h.血液系
 著しい飢餓状態では骨髄低形成を認めるとの報告があり,神経性無食欲症患者においては白血球の減少,正〜小球性の貧血がよく認められる.またまれではあるが血小板減少を認めることもある.
i.中枢神経系
 神経性無食欲症患者では,大脳の委縮や脳室の拡大が認められることがある.体重回復とともに改善することが多い.[吉内一浩・赤林 朗]
■文献
Engel GL: The need for a new medical model: a challenge for biomedicine. Science, 196: 129-136, 1977.
小牧 元, 久保千春,他編:心身症診断・治療ガイドライン2006, 協和企画,東京,
2006.日本心身医学会教育研修会編:心身医学の新しい指針.心身医学,31: 537-573, 1991.
表1-6-5
摂食障害の分類">

表1-6-5

表1-6-6
神経性無食欲症の診断基準(米国精神医学会DSM-Ⅳ-TR)">

表1-6-6

表1-6-7
神経性大食症の診断基準(米国精神医学会DSM-Ⅳ-TR)">

表1-6-7

表1-6-8
神経性無食欲症の身体所見,検査所見">

表1-6-8


出典 内科学 第10版内科学 第10版について 情報